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退職せざるを得なくなった場合に逸失利益の請求を認めた事案(マガジンプランニング事件京都地判平成23年7月4日労旬1752号)

パワハラ、セクハラなどで退職せざるを得なくなった事案で給料相当額の逸失利益まで認めた事案はかなり珍しいのですが(セクハラは逸失利益を認めることもありますが、それ以外はかなり稀)、参考になる事案をご紹介します。また、昨今話題になっている、在宅勤務も関連し興味深い事案です(ただし、本件は自宅を営業拠点とするものであり、一般的な在宅勤務とは事案が異なります。)。

事案

マガジンプランニング社は大手美容整形クリニックのグループ会社として、クリニックの広告宣伝の作成等を行っている会社である。同社の大阪支社は3名体制であったが、内2名が不透明な取引に関与しているという理由で退社した後、マガジンプランニング社は大阪支社を閉鎖し、残った営業担当の従業員のAさんを自宅事務所勤務とすると命令した。Aさんは新生児がおり業務に集中できる状況ではないし、顧客のいる大阪市内から1時間半以上離れたAさんの自宅から営業活動を行うのは困難であり歩合給が激減しかねないとして、マガジンプランニング社を退社し、有期雇用契約満了までの8か月分の給料を請求した。

判旨

「自宅事務所勤務命令は、原告の自宅を被告の大阪事務所として使用するものであるから、原告の私生活に対して影響を与える度合いが強いものである。(中略)自宅において業務を行うための設備(中略)を保管する場所を提供する必要が生じる。(郵便物など)私的なものと仕事に関するものとの区別が必要になり、必然的に原告の家族を巻き込むものである(中略)自宅を事務所として使用する場合には、労働者の個別の合意か、就業規則上明確な定めが必要である(がそのような合意等はない)」

「(契約書に大阪支社勤務と明記されている上、無期雇用から有期雇用に変更する一方で、A独自の顧客(全て大阪市内)に関する歩合給を増加をしたという経緯を踏まえると)大阪事務所を賃借等して確保することが本件労働契約の内容になっていた」

「単に労力や対応への具体的な困難性というにとどまらず、原告の取引先との関係に対する影響やそれによる原告の収入への影響に対する配慮が必要になる。すなわち、(中略)有期契約に変更する代わりに能率手当の支給率を40パーセントに上げることとしたところ、京都市伏見区にあるマンションの一室に事務所を移転させた場合(中略)大阪市内にある同業者と比べて相対的に事業競走上不利な立場になる一般的可能性がある(中略)これに対し、(売上利益の減少はあるが、安定的な株主配当も行っている状態であり)上記のような負担を原告に強いてまで合理化を図らなければならなかった事情が被告にあったとは認められない。」

「以上に照らすと、自宅事務所勤務命令は(中略)無効なものであるところ、被告は原告の要求を拒んで原告の就労場所である新たな大阪事務所を確保せず、原告はそのために本件労働契約を解約せざるを得なくなったのであるから、本件解約告知は、被告の故意過失によるやむを得ない事由によるものというべきである」